「エラトステネスが地球の円周を求めた方法」は、棒と影と少しの数学だけで地球の大きさに迫った壮大な思考実験です。
古代ギリシャの学者がどのような発想で地球の円周にたどり着いたのかを知ると、教科書の知識が一気に立体的に感じられます。
この記事では、エラトステネスの観測条件と計算の流れ、誤差の理由、現代で再現する方法までを順番にたどりながら、地球の円周の求め方を具体的にイメージできるようになることを目指します。
エラトステネスが地球の円周を求めた方法の仕組み
ここでは、エラトステネスという人物の背景から、シエネとアレクサンドリアという二つの都市での観測がどのように地球の円周の計算につながるのかを、ストーリーとして整理します。
エラトステネスの背景
エラトステネスは紀元前3世紀ごろに活躍したギリシャの学者で、天文学や数学、地理学など幅広い分野で業績を残しました。
彼はアレクサンドリア図書館の館長も務め、多くの書物や観測記録に触れることができる立場にありました。
地球が球体であるという考え方もすでに知られており、エラトステネスはそれを前提に、地球の大きさを数値として求めようと試みました。
この「抽象的な仮定を具体的な数値に落とし込む」という姿勢こそが、彼の測定方法の核心になっています。
シエネ—アレクサンドリアの位置関係
エラトステネスが注目したのは、ナイル川流域にあるシエネとアレクサンドリアという二つの都市でした。
シエネは現在のエジプト南部アスワン付近で、当時は北回帰線に近い位置にある町として知られていました。
一方、アレクサンドリアは地中海沿岸に位置する大都市で、シエネより北側にあり、ほぼ同じ子午線上に並んでいると考えられていました。
この二つの都市の「南北に離れた位置関係」が、地球の円周を割り出すための重要な条件になりました。
夏至の正午の太陽の位置
エラトステネスは、夏至の日の正午にシエネでは井戸の底まで太陽光が差し込み、影がほとんどできないことを知っていました。
これは、シエネではその瞬間に太陽がほぼ真上、つまり天頂方向に位置していることを意味します。
同じ夏至の日の正午にアレクサンドリアで垂直な棒を立てると、そこにははっきりとした影ができ、その影の角度が約7.2度であると測定されました。
この「片方では影ができず、もう片方では7.2度分だけ傾いて見える」という違いこそが、地球の曲がり具合を示す手がかりになったのです。
影の角度が示す地球の中心角
太陽光は非常に遠方から届くため、シエネとアレクサンドリアに差し込む光の方向はほぼ平行だとみなせます。
このとき、アレクサンドリアで測った影の角度7.2度は、地球の中心から見た二つの都市の角度差、つまり「中心角」に対応します。
地球が完全な球体だと仮定すると、360度が地球一周分の角度なので、7.2度は360度のちょうど50分の1という割合になります。
したがって、二つの都市間の距離を50倍すれば、地球全周のおおよその長さになるという発想が導かれました。
スタジアという距離の単位
エラトステネスの時代には、距離の単位として「スタジア(スタディア)」と呼ばれる単位が使われていました。
シエネからアレクサンドリアまでの距離は約5000スタジアとされ、1スタジアをおよそ185メートルとすると約925キロメートルに相当します。
この距離を50倍すると、地球一周の長さは約25万スタジア、キロメートルに直すと約4万6250キロメートルという値が得られます。
実際の地球の円周が約4万キロメートルであることを考えると、当時としては非常に高い精度で地球の大きさを求めていたことがわかります。
観測データから地球の円周を計算する道筋
次は、エラトステネスの観測と同じ考え方を用いて、どのような手順で地球の円周を計算するのかを、角度や距離の整理から比例関係、実際の数値計算まで順番にたどります。
観測条件の整理
地球の円周を求めるには、まず二つの地点での太陽の高さに差が生まれるような観測条件を用意する必要があります。
エラトステネスの方法では、夏至の日の正午という特別なタイミングを選ぶことで、太陽高度の違いを最大限に活用しました。
また、二つの地点はできるだけ南北方向に並び、距離が既知であることが重要な前提になります。
条件を整理すると、観測に必要なポイントは次のようにまとめられます。
- 夏至の日の正午
- 南北方向に離れた二つの地点
- 二地点間の距離が既知
- 一方の地点で太陽がほぼ天頂に近い状態
- もう一方の地点で影の角度が測定可能
比例関係のイメージ
地球が球体だと仮定すると、円周の一部に対応する弧の長さと中心角の大きさは比例関係にあります。
エラトステネスの場合、二地点間の距離が弧の長さに対応し、そのときの中心角が7.2度、地球全周に対応する中心角が360度という関係になりました。
このときの「何倍すれば全周になるか」という倍率を表に整理すると、考え方が直感的に理解しやすくなります。
| 角度差 | 7.2度 |
|---|---|
| 全周の角度 | 360度 |
| 角度の比 | 1/50 |
| 円周の倍率 | 二地点間の距離×50 |
実際の数値で計算する流れ
シエネとアレクサンドリアの距離を約925キロメートルとし、角度差を7.2度とすると、その50倍が地球の円周になります。
具体的には、925キロメートル×50=4万6250キロメートルという値が得られます。
この円周を使って地球の半径を求めたい場合は、円周=2×円周率×半径という関係式から、半径=円周÷(2×円周率)として計算できます。
円周率を3.14とすると、4万6250キロメートル÷(2×3.14)で、おおよそ7300キロメートル台という半径の見積もりが得られます。
実際の地球の平均半径は約6370キロメートルとされており、エラトステネスの結果は半径に換算してもおよそ1〜2割程度の誤差に収まることがわかります。
自分で計算してみるコツ
エラトステネスの計算は、基本的には「分数と比例」の組み合わせなので、中学レベルの数学があれば十分に追体験できます。
まず、角度差が全周360度の何分の1かを計算し、その逆数を「倍率」としてメモしておきます。
次に、二地点間の距離にその倍率をかければ、地球の円周のおおよその値が出てきます。
さらに、円周の値を使って半径を求める計算まで行うと、地球の大きさを立体的にイメージしやすくなります。
これらの手順を紙に書き出しながら一つひとつ計算することで、エラトステネスの思考プロセスを自分の中に落とし込むことができます。
測定結果の誤差から読み取れるポイント
ここでは、エラトステネスが求めた地球の円周が現代の値とどのくらい違っていたのかを確認し、その誤差がどこから生まれたのか、そして方法としてどのような限界と長所を持っていたのかを整理します。
計算結果と現在の値の比較
エラトステネスが計算した地球の円周は約4万6250キロメートルとされ、現在知られているおよその値4万キロメートルと比べるとやや大きめです。
この差を割合で見ると、おおよそ10〜20パーセント程度の誤差があったと評価されています。
しかし、約2300年前に測位衛星も精密な時計もない時代に、この程度の誤差で地球の大きさに迫れたこと自体が驚くべき成果です。
比較を表に整理すると、当時の方法の凄さがより明確になります。
| エラトステネスの円周 | 約4万6250キロメートル |
|---|---|
| 現在の地球の円周 | 約4万キロメートル |
| 誤差の目安 | およそ10〜20パーセント |
誤差を生んだ要因
測定結果と現在の値の差は、エラトステネスの発想が間違っていたからではなく、現実的な制約によるところが大きいと考えられています。
具体的には、二地点間の距離の見積もりや、距離単位スタジアの長さの不確かさなど、前提条件そのものに誤差を含んでいました。
また、シエネとアレクサンドリアは厳密には完全な真南北の関係ではなく、少し東西にずれていることも後になって判明しています。
こうした要因をまとめると、どこに誤差の入り口があったのかが見えやすくなります。
- 二地点間の距離の測定精度
- スタジアの長さの定義の揺れ
- 二地点が完全な同一子午線上ではないこと
- 太陽高度の角度測定の精度
- 地球が完全な球体ではないという事実
方法の限界と優れた点
エラトステネスの方法は、二地点だけの情報から地球全体の大きさを推定するという大胆な手法であり、前提条件が厳密でない限り、どうしてもある程度の誤差を避けられません。
一方で、必要なのは角度と距離というシンプルなデータだけであり、測定機器や技術が限られた時代でも実行可能だったという大きな利点があります。
現代の視点からは、誤差の大きさよりも、地球が球体であるという仮定と比例の考え方だけでここまで近い値に到達した思考の鋭さに注目すべきでしょう。
この方法は、測定精度の限界を踏まえつつも「数学的なモデルを現実世界に適用する」典型的な成功例として、今でも教育や科学コミュニケーションの題材として使われています。
現代の道具で再現するエラトステネス実験
ここでは、エラトステネスのアイデアを現代の環境で再現するために、どのような道具や準備が必要か、どんな手順で観測と計算を進めればよいかを、学校や家庭で実践できるレベルに落とし込んで紹介します。
実験に使う道具
今日では、エラトステネスの方法を再現するために、特別な観測装置や大掛かりな道具は必要ありません。
必要なのは、垂直に立てられる棒や定規、影の長さを測るためのメジャー、時刻を確認する時計など、ごく身近なものです。
さらに、スマートフォンを使えば位置情報から緯度を調べたり、地図アプリで二地点間の距離を見積もったりすることもできます。
準備する道具を整理すると、次のようなリストになります。
- 垂直に立てられる棒または定規
- メジャーや巻き尺
- 正午付近の時刻を確認できる時計
- 位置情報や地図アプリが使えるスマートフォン
- 計算用のノートと筆記用具
観測地点の選び方
エラトステネスの実験を現代に応用する場合も、二地点ができるだけ南北方向に離れていることが望ましい条件になります。
同じ国の中でも、北端と南端に近い都市同士を選べば、緯度差が大きくなり、角度の違いもはっきり観測できます。
また、実験の都合上、両方の地点で同じ日に正午の観測ができるよう、地理的な距離だけでなく実行しやすさも考慮して地点を選ぶことが大切です。
観測地点選びのイメージを表にまとめると、次のようになります。
| 地点Aの条件 | 自宅や学校など観測しやすい場所 |
|---|---|
| 地点Bの条件 | 地点Aより明確に北側または南側にある場所 |
| 緯度差の目安 | できれば数度以上 |
| 距離の見積もり | 地図アプリやGPSで確認 |
| 観測時刻 | 同じ日の正午付近 |
実験結果を円周の値に変換する
観測が終わったら、各地点で測った影の角度の差と、二地点間の距離を使って地球の円周を求めていきます。
まず、二地点の影の角度差が360度の何分の1にあたるのかを計算し、その逆数を倍率としてメモします。
次に、その倍率に二地点間の距離をかけることで、地球一周分のおおよその長さを手計算で求めることができます。
最後に、同じ手順で複数の組み合わせの地点で実験を行い、結果を比較すると、測定誤差や前提条件の影響を体験的に理解できます。
こうしたプロセスを通じて、単なる「公式のあてはめ」ではなく、測定とモデル化の関係を体感できるのがエラトステネス実験の魅力です。
学校や家庭での応用例
エラトステネスの方法は、理科や数学の授業での探究活動としてだけでなく、家庭学習や自由研究のテーマとしても活用しやすい題材です。
例えば、クラスで班ごとに別の地点を担当し、全国の観測結果をオンラインで共有すれば、協働的な地球規模の実験として盛り上がります。
家庭では、近隣の都市同士で簡易的に距離と角度を測り、地球の円周を「自分たちなりの値」として出してみることで、世界の広さへの実感が生まれます。
こうした活動をきっかけに、測定技術や衛星測位、地図投影法など、より高度なテーマへの興味が膨らんでいく可能性もあります。
エラトステネスのアイデアは、身近な学びを宇宙規模のスケールへとつなげる入口として機能してくれます。
地球の円周の求め方を学ぶ価値
最後に、エラトステネスの方法を通して地球の円周の求め方を学ぶことが、単なる知識の習得を超えてどのような意味を持つのかを、思考力や教科のつながり、日常感覚の広がりという観点から整理します。
抽象的な思考力への刺激
地球の円周を求める思考プロセスは、目の前にない「巨大な対象」を頭の中でモデル化し、限られた情報から全体像を推定するという高度な抽象思考を必要とします。
これは、数学だけでなく、ビジネスや日常生活においても重要な「限られたデータから全体を見通す力」を鍛えるトレーニングにつながります。
エラトステネスの方法を追体験することで、「式に当てはめる」だけの学びから一歩進んだ、意味のある計算への視点を持てるようになります。
大きさのスケール感や誤差の許容範囲を考えることも、論理的思考力や判断力を育てる良いきっかけとなります。
数学と科学のつながりへの気付き
エラトステネスの方法は、幾何学的な考え方と天文学的な観測が融合した典型的な例であり、教科横断的な学びの素材としても非常に優れています。
角度と距離という一見シンプルなデータから、地学的なスケールの情報を引き出せることは、数学が現実世界を記述する強力な言語であることの具体的な証拠です。
この関係性を表にまとめると、どのような分野の知識が組み合わさっているのかがわかりやすくなります。
| 幾何学 | 角度と円周の比例 |
|---|---|
| 天文学 | 太陽高度の観測 |
| 地学 | 地球の形状モデル |
| 測量 | 二地点間の距離測定 |
| 情報活用 | 地図やGPSの利用 |
日常感覚への広がり
地球の円周の求め方を理解すると、「東京から何キロ」「飛行機で何時間」といった日常的な距離感も、地球全体のスケールの中で位置づけて考えられるようになります。
また、地図の緯度線や経度線の意味、時間帯の違い、季節による太陽高度の変化なども、ひとつの大きな仕組みとしてつながって見えてきます。
こうした感覚は、ニュースで出てくる地名や、旅行先の位置関係をイメージする際にも役立ち、世界の見え方そのものを豊かにしてくれます。
エラトステネスの思考実験を入り口に、地球という天体の一員である自分たちの暮らしを広い視野で捉え直すことができるのです。
抽象的な「地球の大きさ」というテーマが、日常感覚と結びついた生きた知識へと変わっていきます。
エラトステネスの方法から広がる発想
エラトステネスが地球の円周を求めた方法は、棒と影と距離の情報だけで、地球という巨大な対象の大きさに迫った大胆で洗練された思考実験でした。
二地点の角度差と距離をもとに比例関係を設定し、そこから全体の円周を推定するというアイデアは、現代でも通用する普遍的な発想法です。
この方法を学ぶことで、数学の公式が単なる計算ルールではなく、現実世界を理解するための道具であることを実感でき、抽象と具体を行き来する思考の楽しさに気付けます。
そして、身近な観測とシンプルな計算から宇宙スケールの情報を引き出せるという事実は、今の時代を生きる私たちにとっても、新しい学びや探究の可能性を示してくれます。

